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ねぎとろ丼

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地下大図書館の宝物

※どなたでもどうぞ。ただし、百合・レズ展開が苦手な方はお戻り推奨。















   『地下大図書館の宝物』



 今夜は満月。吸血鬼が最も力を発揮できる時間である。同時に、体の火照りも最高潮であった。
 冷たい夜風にわが身を晒しても、冷め切らないほど。
 私は吸血鬼、レミリア・スカーレット。幻想郷で最強。妖怪すらも畏れる種族だ。
 そんな私にも人肌が恋しくなる時もある。今がその時だった。
 眠っているであろう、咲夜を起こすのはさすがに酷い。人間なのだから。だから、彼女でないと。
 館内を歩いて地下大図書館を目指す。親愛なるパチェに会うために。
 階段を下りていく。飛べば一瞬であるその道のりをあえて歩いていく。
 自分で自分を焦らしているみたいで、私が変態に思えた。でも、彼女とすぐに会ってしまうのは惜しい気持ち。
 階段の一つ一つを歩く時間さえも楽しむ。愛おしい彼女に近づいている瞬間。
 開けるという手間のかかる扉は試練の様。謎を解いて、宝物へ向かっているような気分。
 大図書館に着いて高まる興奮は、目の前に怯えた人間がいるようなもの。滴る血液を目の前にしているような気分。
 普段は蔵書整理に追われている妖精が一杯の図書館内。今は虫の声さえ聞こえないほどの静寂が支配している。
 そして親愛なるパチュの部屋に行き着いて、扉を開けた。
 眠れる魔女は微かな寝息を立てて休んでいる。とうとう、宝とご面会。
 私は擦れるほどの小さな声で彼女の名前を呼んだ。
「パチュ」と。
 彼女が反応する。ゆっくりと瞼が開く。何百年と生きてきた私でさえ、その時間は永く感じた。
 パチュが私を見る。ようやく、彼女の瞳を見ることが出来た。
 ああ、全てを見透かすようなその目で、私の全てを見て欲しい。
 魔女らしく、思慮深い視線で私を見つめる。彼女はどんなことを思って、目を覚ましたのか。
 夜更けに起こされたことで腹を立てるのか。月の綺麗な夜に私と会えたことを素直に喜ぶのか。
「レミィ」
 彼女が私を呼んだ。その声を聞いただけで、胸の奥が締め付けられた。ああ、愛おしきパチュ。
「こんなにも月が出ている夜に、どうしたの?」
「どうしても会いたくなったの。パチェ、手を取ってもいいかしら?」
「ええ」
 彼女の繊細な手腕に触れる。
 本の項を操るその指先で、血に染まりきった私に触れて欲しい。
 膨大なる知識と考察力で、もっと私のことを理解して欲しい。
 私は彼女に迫った。パヒュームの香りが漂う。酔えるほどの、薔薇の匂いがした。
「レミィ、顔が近いわ」
「いいじゃない。たまには近くで見せてよ、あなたのお顔」
「……恥ずかしい」
 頬を赤らめて、はにかむ彼女はとても可愛い。穢れを知らない処女の笑顔の様に。
「パチェ、目を閉じて」
「もう、レミィったら」
 言葉では反抗するも、態度で従ってくれる。目を閉じた彼女に、口付けを。
 唇で彼女の体温を感じる。生きた人間の生暖かさ。つまり、彼女の温もり。優しさ。
 どちらからか。放したり、放されたりして接吻を楽しむ。
 指先で彼女の顔に触れる。熱を帯びた耳や艶やかな髪に。同様にパチェも私に接触。
 お互い、相手の全てを撫でるように。唇も。髪の毛も。体のいたる部分を。
 パチェが私の翼までも撫で回す。その心地よさに、この身を震えさせて耐えるしかなかった。
 欲しい。もっと彼女が欲しい。
 知りたい。もっと彼女のことが知りたい。
 一つになりたい。彼女と一つに。
 そう思って舌を入れようと。しかし思いとどまった。そこまでしてしまったら、もう後に戻れないのではないかと。
 私は吸血鬼。彼女は魔女。私達は親友の関係。夫婦になる契りを交わせる男女の関係ではない。
 俯いた私を呼ぶパチェ。怪訝な顔で私を覗き込んでいた。
「レミィ、どうしたの」
「……なんでもないわ」
「話してよ」
「……」
「お願い。話してちょうだい、レミィ」
「これ以上の関係を望む私は、狂っていると思う?」
「ううん、そんなことないと思う。愛を知る者なら、自然なことじゃないかしら」
「でもね、思うの。進みすぎてしまったら、狂い果てて自分が自分でいられないのじゃないかって」
「大丈夫。レミィはレミィ。すでに狂い果てているから、これ以上狂うことはない」
「あなたがそう言うなら、そうじゃないかしら。パチェを信じてる」
 口付けを再開。しかし、舌を入れてみようと思うが踏み込めない。
 燃えるこの体は再現なく熱を持ち、制御できなくなって彼女に酷いことをするのではと不安になる。
 優柔不断な私に気を使ったのか。パチェのほうから舌を入れてきた。
 唇では感じ取ることが出来ない、火傷するかのような彼女の舌の温度。
 彼女の舌が私の口内を蹂躙していると思うと、胸の奥底がいい気持ちに締め付けられた。
 負けじと、私も舌を入れた。彼女の歯の感触を楽しんで、歯茎を弄んで。
 目を開けると、悦な表情をしたパチェが私を見つめる。
 涎を垂らしながら接吻に応じる彼女の姿は非常に淫靡なるものだった。
「レミィ……お願い、抱きしめて」
「ええ、パチェ……」
 懇願する彼女の顔はとてもいやらしいもので。私は彼女を押し倒した。
 一つのベッドの上で、二人まさぐり合う。
「レミィ、朝までここにいて。一緒に、一緒に寝て欲しいの」
「ええ。朝までと言わず、ずっとでも構わない」
 共に意識が落ちていく。
 彼女の胸の中は、暖かい。
 それはずっと昔に感じた、母の慈しみに近かった。
 彼女が私を呼ぶ声は、私に寂しさを忘れさせる。
 それは遥か昔に聞いた、父の優しさに近かった。
 彼女が私に触れてくれると、安らぎを与えてくれる。
 それはまるで愛する者の愛撫のようであった。
 目が覚めたら、彼女はどんな顔で挨拶してくれるだろう。
 咲夜が目を覚ましたら、どれだけ驚くのだろう。
 今度はどれだけの時間を、パチェを過ごそうか。

「レミィの、望むがままに」

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